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​一本刀土俵入り

一、

相撲甚句に櫓の太鼓

夢に描いた横綱姿

母に見せたい一途な思い

思い破れてやくざな渡世

義理と人情の堅気のひとつ

うなる野郎の駒形茂兵衛

太鼓ドドンと鳴るまでやるぞ


二、

赤城おろしか雷様か

光る稲妻 子分にすれば

人も驚く 大身茂兵衛

背丈六尺八寸ちょっと

目方二十と五貫を数え

腕は強いが情けにゃ弱い

生まれきっての上州気質


三、

病治らぬおふくろ残し

明日は江戸へと 心に決めて

まぶた押さえてその手を握り

苦労かけるが堪えておくれ

いつか必ず錦を飾る

胸におさめて 旅立ちなさる

利根の渡しの川風しみる


四、

郷里(くに)を出てから はや幾年か

修行重ねた相撲の技も

見ると取るとは勝手が違い

いつの間にやら親方さんに

末の見込みが全くないと

郷里に帰って 鋤鍬(すきくわ)取れと

たたき出された駒形茂兵衛


五、

飲まず食わずの一文無しで

たどり着いたは、常陸の国の

利根の川渕 取手の宿で

茶屋の二階の 手すりにもたれ

酒の機嫌か 気性のせいか

倒れかけたる 関取見つけ

声を掛けたが 合縁奇縁


六、

宿場きっての酌取り女

これが取手の おつたといって

人に知られた姉さん気質

涙ながらの茂兵衛の話

女心に助けてやろと

後生大事な巾着ぐるみ

出世しなよと持たせて発たす


七、

持たぬ月日は これ経ちやすい

取手出てから 十年あまり

江戸へ戻った 駒形茂兵衛

どこで捨てたか 横綱いちょう

突いた張ったの相撲の道も

斬った張ったのやくざの道へ

思いきれよの わらじの姿


八、

縞の合羽に 三度笠で

たどり着いたは 思い出深い

恩にすがった 取手の宿よ

今は菓子屋 商っているが

おつた親子を訪ねてみれば

亭主辰三 いかさま博打

追手追われる人情沙汰よ


九、

恩の返しの 真似事なるが

出世誓った おつたを前に

腰の脇差 背中に回し

相撲上がりの 駒形茂兵衛

寄せる相手をたちまち倒し

今じゃしがねえ 横綱姿

これが茂兵衛の土俵入りだ

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