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国定忠治

一、

国は上州 佐位郡にて

音に聞こえた 国定村の

博徒忠治の 生い立ちこそは

親の代には 名主をつとめ

人に知られた 大身なるが

大事息子が 即ち忠冶

蝶よ花よと 育てるうちに

二、

幼なけれども 剣術柔

今はようやく 十五の年で

人に優れて 目録以上

明けて十六 春頃よりも

ちよいと博奕を 張り始めから

今日も明日も 明日も今日も

日にち毎日 博奕渡世

三、

負ける事なく 勝負に強く

勝って兜の 緒じめありと

二十才あまりの 売り出し男

背は六尺 肉付き太く

器量骨柄 万人優れ

男伊達にて まことの美男

一の子分が 三ツ木の文蔵

四、

鬼の喜助に よめどの権太

それに続いて 板割浅太

これが忠治の 子分の中で

四天王とは 彼らのことよ

後に続いた 数多の子分

子分小方を 持ったと言えど

人に情の 慈悲善根の

五、

感じ入ったる 若親方は

今は日の出に 魔がさしたるか

二十五才の 厄年なれば

すべて万事に 大事をとれど

丁度その頃 無宿の頭

音に聞こえた 島村伊三郎

彼と争う その始まりは

六、

かすり場につき 三度も四度も

恥をかいたが 遺恨がもとで

胸を抑えて 我慢はしたが

一の子分の文蔵がきかぬ

首をまとうの 引導舟よ

腰に差したる 長脇差しが

飯の食い上げ 捨て置かれんと

七、

聞いて忠治は 小首をかしげ

さらばこれから 喧嘩の用意

いずれ頼むと つわ者揃い

頃は午年 七月二日

鎖かたびら 着込みを着し

手勢揃えて 境の町で

様子うかがう 忍びの人数

八、

それと知らずに 伊三郎親方は

五人連れにて 馴染みの茶屋で

酒を注がせる 銚子の口が

もげて盃 みじんに砕け

けちな事よと 顔色変えて

虫が知らぬかこの世の不思議

酒手払ってお茶屋を出れば


九、

酒手払って お茶屋を出れば

いつに変った この胸騒ぎ

さても今宵は 安心ならぬ

左右前後に 守護する子分

道に目配ばせ よく気を付けて

目釘しめして 小山へかかる

気性はげしき 大親方は

十、

気性はげしき 大親方は

およそ身の丈け 六尺二寸

音に聞こえし 怪力無双

運のつきかや 今宵のかぎり

あわれ命は もくずのこやし

しかもその夜は 雨しんしんと

闇を幸い 国定組は

十一、

今は忠治は 大音声で

名乗り掛ければ 伊三郎親方は

聞いてニッコリ 健気な奴ら

命知らずの 蛆虫めらと

互い互いに 段平物を

抜いて目覚す 剣の光り

右で打ち込む 左で受ける

十二、

秋の木の葉の 飛び散る如く

上よ下よと戦 う内に

運のつきかや 伊三郎親方は

胸をつかれて 急所の痛手

ひるむ所へ つけ込む忠治

首をかっ切り 勝鬨あげて

しめたしめたの 声諸共だが

オーイサネー  

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